朝井リョウ『少女は卒業しない』あらすじと感想・レビュー・口コミ



■□『コラム第24回目』■□
▶︎この記事の執筆者:たくぼく(@takuboku1018)
【少女は卒業しない》
「あたしたちは十八年も生きてしまった。離れたくないと喚くほど子供じゃない。だけど、まだ十八年しか生きていない。離れても愛を誓えるほど大人でもない。」
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— たくぼく@象使い🇹🇭🐘 (@takuboku1018) April 9, 2020
『少女は卒業しない』



どうもこんにちは。朝井リョウの大ファンのたくぼくです。
本日は、朝井リョウの数ある作品の中から、『少女は卒業しない』をご紹介します。
本記事では、本書『少女は卒業しない』のあらすじと、本書に登場する素敵な表現・言葉たちを紹介しながら、それらの感想・レビューを記載します。
卒業から始まる物語です。
それでは行きましょう。
エンドロールが始まる
■あらすじ■
「本を返したいので」卒業式の朝に先生を呼び出した私(作田)。奥さんにそっくりに巻いた髪。同じ色のゴム。好きになってしまった先生に会いたくて本を返さなかった。「図書室ってなんのための場所か知ってますか?」「図書室は、本を貸し借りするための場所ですよ」甘く切ない少女の叶わない恋愛ストーリー。
数え切れないほどに枝分かれしているいくつもの道にはじめの一歩を踏み出すため、私たちは制服を脱いで、靴を履き替えて髪の毛を整えるのだ。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(エンドロールが始まる)
学校を卒業するってそれまで同じ道を歩いてた人たちと別々の道を歩み始めることなんだよね。
制服を脱いで大人になった私は、そんなとき、下くちびるを噛む以外に涙をこらえる方法を知っているだろうか。何でもない振りが、もっと上手にできるようになっているのだろうか。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(エンドロールが始まる)
大人になるってどういうことなんだろう、ていう気持ちを具体的に描けているのがすごいよね。
本当に話したいことだけ、話しだせない。話し方を忘れてしまったみたいに、声を出すことができない。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(エンドロールが始まる)
本当に言いたいことってなんでかな、言えない時ってあるよね。
いま、私は、先生にどう近づいていいのかわからない。先生のそばに行く理由が、いまの私にはひとつしかない。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(エンドロールが始まる)
悲しい果てゆく恋模様。。
この本を返したら、先生と生徒という関係さえなくなって、私は先生と正真正銘の他人になる。特別な理由でもなければ、毎週金曜日に先生に会えなくなる。それぞれ別々の、ふたつの春が始まってしまう。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(エンドロールが始まる)
毎日理由もなく会えていた大切な人なのに、これからは理由がないと会えなくなってしまう。そう考えると学校ってとても貴重なところだ。
先生、と、もう一度、言ってみる。すると、右目がよく見えなくなった。好きでした、と、もう一度。すると、左目がよく見えなくなった、好きでした、好きでした、図書室がよく見えなくなる。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(エンドロールが始まる)
最後のお別れと最後の涙。切ないなぁ。
屋上は青
■あらすじ■
卒業式の朝、幼馴染の孝子と尚輝は屋上で久しぶりに待ち合わせをする。来年から地元の国立に通う貴子にとって、1年以上も前に制服を脱ぎ捨ててしまった尚輝は、何倍も自由でカッコ良くて、遠くに行ってしまう存在のように感じていた。そんな特別な存在の尚輝が、孝子を屋上に呼んだ理由とは。涙を流しながら踊る尚輝。何が幸せで、誰が正しいか。分からないままに生きる高校生最後の1日を描く。
尚輝に似合うものは、私にはひとつも似合わない。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(屋上は青)
同じ人間なのに、この人と自分は全然違うな〜、って感じることあるよね。
私はいつだってそうだ。遅刻もできないし、忘れ物だって、テストで赤点を取ることだって、授業をサボることだって、できない。しないんじゃなくて、できない。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(屋上は青)
しないこととできないことって違うよね。
てのひらの中でくしゃくしゃに潰れてしまった右肩下がりの折れ線グラフなんかに、私はがんじがらめになっている。こんなに細い線が少し傾いただけで、私はお腹が痛くなったりするんだ。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(屋上は青)
自分の世界が神の1枚、グラフの1線なんかにがんじがらめになってしまう、学生ってそういうもんなんだよね。
恋心とか片思いとか、そういう甘い思いじゃない。もっともっと辛くて、苦しくて、憧れて、憎くて、焦って、もう二度と味わいたくないような思いを、私は尚輝に対して何度も感じてきた。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(屋上は青)
言葉にできない思いを、自分の知っている言葉をかき集めて表現する。未完成だけどどこかずっとあったようなそんな感情をずっと大切にしていたいな。
これから高校生とは呼ばれない時間を生きて行くことになる私たちの道のりは、きっともう本当に、二度と交わることはない。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(屋上は青)
何本もの道に枝分かれして行く道が、もう二度と交わらないと知ってしまった時、とても悲しいのと同時にこれまでの時間がどれだけ大切だったのか、気付かされるよね。
尚輝はどれだけ不安だったのだろう。どれだけ怖かったのだろう。自分だけ、みんなと違う道へと踏み出すことを決めたとき、退路を断つと決めたとき、尚輝はどれだけ怯えていたのだろう。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(屋上は青)
「強く見える人だって、本当は弱かったんだ」って知った時、自分はまた強くなれる。
在校生代表
■あらすじ■
在校生代表の送辞で明かされた亜弓のザビエルへの三つのお願い。一つ目は送辞の添削、二つ目は送辞で文章を読むこと、最後の一つは−。「先輩、私、数学以外にも、ずっと分からないことがあるんです。」亜弓の知りたかったこと。入れ違う恋。明かされる嘘。亜弓が照明の使い方をもう一度田所先輩に教えてもらう時、物語は終焉を迎える。
バスケもうまくてキーボードも弾けたゆっこ先輩は、自分のために泣いてくれた人がいることを知らないんだ。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(在校生代表)
恋心が実らないことに気づいてしまった瞬間。。
寺田の足の甲はキャベツ
■あらすじ■
「今日晴れたら、行こうと思ってた場所があんだー。」女バスの部長のあたし(後藤)と男バスの寺田が過ごす最後の一日。三月の河原、世界で一番明るい場所でする二人だけの花火。今日、十八歳の男女が、決断をする。
緑、黄色、赤や青。三月の草むら、川の水、雲の背景の空色。いろんな色がある。きれいだ。きれいすぎるから、あたしは少しずつ鼻の奥が酸っぱくなってくる。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(寺田の足の甲はキャベツ)
これはどういう意味なんだろう。わからなかっtけれど、なんだか面白い表現ですよね。
始まった。終わることが始まった。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(寺田の足の甲はキャベツ)
こういうこと感じること、僕にもあるなぁ。
あたしたちは十八年も生きてしまった。離れたくないと喚くほど子供じゃない。だけど、まだ十八年しか生きていない。離れても愛を誓えるほど大人でもない。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(寺田の足の甲はキャベツ)
あああ、青春だ。切ない。悩める思春期の思い。
寺田の夢はこの町にあって、あたしの夢は東京にある。それだけのことだ。それだけのことなのに、あたしはもういっぱいだ。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(寺田の足の甲はキャベツ)
世間から見たらちっぽけな問題も、自分の中の世界では、とても大きかったりするもの。
このひざのうら越しに見える景色が、東京だったらよかった。このひざのうらの向こうに東京タワーが立ってて、新宿とかがあって、絡まるぐらいに地下鉄が巡っていれば、あたしは寺田の隣でまた花火ができた。ちゃんと、夏に、夜に、花火ができた。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(寺田の足の甲はキャベツ)
将来の大きな学生に夢はとても大きなもので、それを叶える為には大切にしたいものも手放さなければいけない時って、あるよね。
四拍子をもう一度
■あらすじ■
「桜川、お前らがやったんだろ!」最後の卒業ライブを目前にして森崎たちの衣装とメイク道具がなくなった。CD-Rまでも。犯人は誰なのか。このままでは、私(神田)が隠しておきたかったことがバレてしまう。カチ、カチ、カチ、カチ。「森崎くん、あなたがアカペラで歌えば、すべてに勝てる」体育館全体を包み込む緊張。今、最後の校舎、最後のライブでたった一本のマイクが世界の中心になる。
下手くそなビートルズは、雨上がりの校舎になぜだかとてもよく似合っていた。高校の校舎に似合うものは、いつだってとってもかっこわるいものなのだ。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(四拍子をもう一度)
学生って、未完成さがなんだかとても青臭かったりする。いい意味で。
最後の校舎、最後のライブ。最後の最後で、たった一本のマイクがこの世界の中心になる。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(四拍子をもう一度)
たった1本のマイクがこの世界の中心になる。どこからそんな表現が浮かんでくるんだろう・・
ふたりの背景
■あらすじ■
卒業したらアメリカに行く私(あすか)と知的障害の正道くん。一緒に美術部に入って仲良くなった二人が、最後の一日を過ごす。「僕はふしぎなんだ。どうして、僕の大切な人はみんな、遠くへ行ってしまうんだろう。」正道くんはお母さんを亡くしていた。その人との別れを受け入れたしるしとして絵を残す彼が、あすかに描いてみせた絵とは。
正道くんは運動が苦手だ。だけど、こうして自分が行きたい場所にはまっすぐ歩いて行くことができる。私は、それで十分だ、と思った。目的地に向かってまっすぐに歩くことができるならば、その人はきっと大丈夫だ。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(ふたりの背景)
目的地に向かって歩けない人って、なんだかとても多い気がするんだ。
三月の終わりの午後は、秋に似ている。思ったよりもあたたかくて、心が落ち着く。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(ふたりの背景)
分かる〜〜〜ってなりました。(笑)
私は、こんなにもやさしい人は、たとえアメリカに行ったって、いないんじゃないかと思った。世界中どこを探したって、こんなにもやさしい人はきっといない。
「少女は卒業しない 著:朝井リョウ」(ふたりの背景)
「やさしい」の表現の仕方がうますぎませんか。
夜明けの中心
■あらすじ■
夜の校舎に忍び込んだまなみは、そこで香川と遭遇した。「ねえ、香川は何でここにいるの?」「まなみと一緒だよ」二人の目的は、亡くなった駿にもう一度会うこと。香川は駿に謝るために、私は駿にお弁当を食べてもらうために、駿がいないはずの調理室に忍び込んだ。夜明けには壊される校舎の中で、二人はかけがえのないものに別れを告げる。
最後に
朝井リョウは、学生の心理描写を描いた作品が本当に上手さと思います。
今回の作品は、廃校になる学校の最後の卒業式の1日を朝から夜まで時間軸に沿って、それぞれの少女の視点から描かれた物語でした。
同じ1日でも、一人一人に違う思いを抱いて、特別な時間を過ごして行く様子が丁寧に足掻かれています。
ぜひ、あなたもあの日の卒業を取り戻しに、本を手に取ってみてはいかがでしょうか。